古代エジプトのミイラを製作するために使われた防腐処置に使われていた化学物質が明らかとなった。
古代エジプト化学の語彙を解読する非常に興味深い研究。
古代エジプトでは肉体は滅んでも霊魂は生き続けると考えられていた。
そのため死後も体の形を保った保存しておくことで、来世でも生き続けることができると信じられていた。
その保存方法として「ミイラ」として長時間原型を留められるようにしていた。

ミイラを作る手法は古代のパピルスといった文書での記載やミイラ自体の有機残留物分析で推定されている。
しかし文書中の用語が具体的にどのような物質と対応づいているのかは多くの議論が行われ謎であり、ミイラを作る上で遺体に実際にどんな化学物質をどこにどのように塗ったのかは謎であった。

本日発表された論文ではミイラ製作現場から発見されたラベル付の瓶から動物性油脂、蜜蝋、植物性油脂、アスファルト、樹脂といった残留物を特定した。
防腐処理物質は地中海や遠く東南アジア由来の成分を含んでおり、古代エジプトのミイラ製作が遠方との交易を促進する役割を果たしたことを示している。

この論文ではエジプトにある広大な古代の埋葬地であるサッカラの第26王朝時代の防腐処理作業場から出土した31個の陶器に含まれる有機物を分析した。
これらの容器には内容物や用途に応じたラベルが貼られ、有機物質とその具体的な防腐処理方法との関連付けを行うことができるようになった。

そしてガスクロマトグラフィー質量分析計を用いて、陶器に含まれていた有機残留物を解析した。
その結果、陶器ごとに植物油脂、樹脂、動物性油脂など様々な物質が含まれていることがわかった。
更に陶器に刻まれた碑文から混合物を身体のどの部位へどの順番で塗布するかなどの手順を推定することができた。

有機残留物の同定はそれらの物質を供給する国際貿易ネットワークを再構築することを可能とした。
このネットワークではエジプトから遠くアジアやアフリカを結んでおり、紀元前からの貿易の発展に寄与したのではないかと筆者らは述べている。

考古学と言語学、質量分析化学を組み合わせ、ミクロレベルの分析から社会のマクロレベルへの解釈を可能とした非常にスケールの大きい研究である。
【参考文献】
The chemistry of mummification – Traces of a global network
https://www.lmu.de/en/newsroom/news-overview/news/the-chemistry-of-mummification—traces-of-a-global-network.html
Secrets to making mummies revealed in ancient urns
https://www.science.org/content/article/secrets-mummy-making-revealed-residues-ancient-urns
Discovery of embalming workshop reveals how ancient Egyptians mummified the dead
https://edition.cnn.com/2023/02/01/africa/ancient-egypt-mummy-embalming-workshop-scn
【引用素材】
プレスリリースより
https://www.lmu.de/en/newsroom/news-overview/news/the-chemistry-of-mummification—traces-of-a-global-network.html
Attribution: Joshua Sherurcij
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Mummy_in_Vatican_Museums.jpg
Public Domain
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Book_of_the_Dead_of_Hunefer_sheet_3.jpg
原著論文より (CC BY 4.0)
https://www.nature.com/articles/s41586-022-05663-4
【原著論文】
M. Rageot, et al. “Biomolecular analyses enable new insights into ancient Egyptian embalming” Nature, 01 Feb 2023 (CC BY 4.0)
https://www.nature.com/articles/s41586-022-05663-4



