コウモリのiPS細胞の作製

コウモリからiPS細胞が作られ、その免疫機構について調べられた。
SARS-CoV-2といったウイルスと共存しつつ、自身がなぜ生存しウイルス拡散を招くのかに迫る基盤を創出する研究。

コウモリは空を飛んだり、超音波を発したり、体の大きさに比べて長寿命で、がんの発生率が少ないと特徴的な哺乳類である。
コウモリはSARS-CoV-2といったヒトが感染する様々な病原体を媒介するという特性を持つ。
しかし研究に必要なコウモリの細胞を確実かつ再現性高く採取するのは困難であった。

そこで研究者らはコウモリで人工多能性幹細胞(iPS細胞)を作ることに着目した。
iPS細胞とは、体細胞から少数の因子を導入培養することで様々な細胞に分化する能力とほぼ無限に増殖する能力を獲得した細胞である。
これにより研究室内で保存し必要に応じて特定の種類の組織に分化することを可能する。

研究者らはまず山中4因子(Oct4、Sox2、Klf4、cMyc)と呼ばれる細胞初期化因子をコウモリに導入した。
これらの4因子はヒトだけでなく、マウス、イヌ、ブタ、マーモセットでも有効性が示されている。
しかし単に4因子を導入するだけではうまくいかなかった。

そこで研究者らは初期化因子の比率と量を変え、シグナル伝達経路を活性遮断し、コウモリのiPS細胞樹立を可能とした。
iPS細胞の未分化性を維持するLif、幹細胞の維持に重要なサイトカインScf、Pka経路活性化因子であるフォルスコリンとFgf2を培養液に添加し、培養14~16日後にiPS細胞が出現した。

そしてRNA-seqによりコウモリのiPS細胞の遺伝子発現を確認したところ、他の生物種のiPS細胞と同様にOct4、Sox2、Nanogといった標準的な多能性関連遺伝子が発現していた。
また体細胞がiPSへ移行する際にクロマチン構成、メチル化動態が大幅に変化すること、つまり発生多能性を示すことが明らかとした。

コウモリのiPS細胞の多能性を示すために分化誘導することにより、外胚葉、中胚葉、内胚葉への分化できることも確認した。
またこのiPS細胞を免疫不全マウスに注入したときに、マウスに定着できることを示した。
これらの結果により、コウモリiPS細胞が樹立できていることを確認できた。

樹立したコウモリiPS細胞を他の哺乳類のiPS細胞との遺伝子発現を比較したところ、他の哺乳類は同じグループにいたがコウモリは別のグループに位置していた。
詳しく遺伝子発現を見ると、コウモリの幹細胞では他の哺乳類細胞においてウイルス感染後にのみ活性化される遺伝子を発現していた。

更にはRNA-seqの結果を基にメタゲノム情報と合わせることで、コウモリiPS細胞では多様な内在化したウイルス配列が存在していることを示した。
具体的にはヒトヘルペスウイルス、SARS-CoV-2といったヒト感染症ウイルスだけでなく、サル、コアラ、羊などに感染するウイルス配列も存在していた。

コウモリiPS細胞を作製することで、コウモリのウイルスに対する耐性獲得とウイルス配列の複製と保持を支持する結果を得ることができた。
これによりゲノム編集やオルガノイド研究が進み、将来のパンデミックに備えつつ病気と治療法に関する幅広い新しい洞察を得られると考えられる。

【参考文献】
First ever bat stem cells could reveal how coronaviruses spread and evade the immune system in new hosts
https://www.ucd.ie/newsandopinion/news/2023/february/22/firsteverbatstemcellscouldrevealhowcoronavirusesspreadandevadetheimmunesysteminnewhosts/

How do bats live with so many viruses? New bat stem cells hint at an answer
https://www.science.org/content/article/how-do-bats-live-so-many-viruses-new-bat-stem-cells-hint-answer

【引用素材】
Wikimedia Commons (CC BY 4.0)
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Rhinolophus_ferrumeguinum.jpg

【原著論文】
M. Déjosez, et al. “Bat pluripotent stem cells reveal unusual entanglement between host and viruses” Cell, Pubulished: Feb 21, 2023
https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(23)00041-7

【感想】
単にiPS細胞を作るだけでなく、ウイルス感染という生物学的意義を加えた大変素晴らしい研究です。

コウモリiPS細胞を作製するところにも工夫があり、他生物iPS細胞との比較、免疫反応を行い、コウモリiPS細胞研究の華々しい幕開けを感じます。

【元ツイート】
https://twitter.com/takatoh_life/status/1629287858162012160


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